さはらやの倉庫 短歌と愚痴と雑記

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春よこい

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春よこい

 まだ桜は咲いていない。桜並木が有名な川沿いの土手は昨日よりぐんと暖かくなった陽射しできらきらと輝いていた。
「はやく春になるといいね、兄さん」
二番目の弟はもどかしそうに靴を、靴下を脱いでいた。
「川に入るのか?冷たいぞ」
俺の声も聞かずに、彼は浅瀬へと走り出した。
「うっひょっ冷てぇ!」
言わんこっちゃない、と思ったが弟の顔があんまり眩しくて俺は身体中がうずうずするのを感じた。芽吹く前の蕾ってこんな感じなのだろうか。
「優太、服は濡らすなよ」
それでもまだ兄という立場が気になって靴を脱ぐことができない。
「はーい!」
素直に返事を返した弟に、いっそのこと「兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」と誘ってほしいなどと思ってしまう。
「兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
まるで俺の頭の中を覗いたかのような優太の言葉に俺ははっと目を見開いた。そこには太陽を反射させた川のきらめきと、優太の少し赤くなったくるぶしと、溢れんばかりに伸びようとしているまだ若い土手の草。なんだ、もう春は来ているじゃないか。
「少しだけだぞ」
興奮を隠すようにそう言えば、俺は靴も揃えずに歩き出す。足の裏に当たるちくちくとした草の感覚が気持ちいい。
「見て、サギだ」
少し下流に真っ白なサギがいた。弟の声に驚いたのか音もさせずにふわりと飛び立つ。上へ上へと飛んでいくサギをふたりの目は追いかける。
「春だね」
「春だな」
仰ぎ見た青空はこれでもかというほどに春の匂いを溜め込んでいた。