さはらやのブログ 詩と短歌 時々自分のこと

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短歌研究新人賞 佳作 そうもんか

そうもんか          佐原八重

本を読む君の隣で森になる僕は生まれたての森になる

会話する君の横顔耳たぶとほくろの位置が意外と近い

県道のベンチに二人 イオンしかない風景と湿った風と

手をつなぐことに慣れずにマンホールごとに飼っていた犬の真似する

その声で僕の名前を呼ぶことを誰も知らない夕暮れの町

らっしゃいませーらっしゃいませーってコンビニの店員の無気力は明るい

相槌を打つとき揺れる生え際の髪 夏まではあともう少し

めくる音だけに支えられるように図書館にひたひたと静寂

死んでいる誰かに会いに行きたくて雑に開いた人間失格

図書館の閉館時間ぎりぎりに司書がつぶやく迷える羊(ストレイシープ

青空を見上げて探す昼の月 少し死にたい、少し生きたい

寂しげな君の後ろをついていく どこかの家のカレーが匂う

ずっとずっと君の隣を歩けるか分からないけど歩調を合わす

満タンにならなくていい明日まで行ける程度の愛と同情

喧嘩した妹が乱暴に閉め僕が閉めなおす薄いふすま

母が言う隣の家の悪口をソーダで割ってちびちびと飲む

公園の鳩を追いかけ行く君のショルダーバックを持ち続けている

飲みかけのペットボトルの中にある海と空とに夕陽が落ちる

堤防を走って青春ごっこして初夏を出迎えるための儀式

君よりも僕の瞳が澄んでいて目を合わせずにキスを続ける

海岸の鳥を目で追う 灯台の静けさみたいに君が笑った

日常を早送りするためにあるつむじ風っていう合言葉

日に焼けた画用紙みたいな午後二時に君のあくびが吸い込まれてく

妹の音読を聴くとき居間の明かりのぼんやりした心地よさ

落ちていたゴミを拾った君の生き方を死ぬまで覚えておこう

そうもんかそういうもんか君のことずっと見ていたいと思うこと

優しさと言うにはあまりに脆すぎて君の背骨に中指を刺す

ぬるま湯に首までつかり君の手の節ひとつずつ脳に吐き出す

朝焼けの影がくっつきまた離れ繰り返す 手はつないだままに

携帯の充電がない「好きだよ」と君に送って二度寝を決める