さはらやのブログ 詩と短歌 時々自分のこと

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詩 サランラップの向こう側

サランラップの向こう側

いつからか上手に息ができなくて
うつむくことが得意になった
青空はサランラップに包まれて
さも平然と朝日を包む
傷つけることが怖くてにげている?
違う傷つくことが怖いの
夢見てるサランラップの向こう側
誰かが連れて行ってくれると

何回も自分殺しの罪を着て
誰に許しをこうているのか
透明な膜で他人を寄せ付けず
こどくこどくと涙を流す
優しさは無関心の裏側で
微笑みだけがひとりで歩く
自分ではサランラップを破らずに
助けての発音だけが上手ね

爪を研ぎ
サランラップ
破くとき

きっと傷つく
傷つける

けれど生身の
私は空を
直接触れて
深呼吸する

短歌研究新人賞 佳作 そうもんか

そうもんか          佐原八重

本を読む君の隣で森になる僕は生まれたての森になる

会話する君の横顔耳たぶとほくろの位置が意外と近い

県道のベンチに二人 イオンしかない風景と湿った風と

手をつなぐことに慣れずにマンホールごとに飼っていた犬の真似する

その声で僕の名前を呼ぶことを誰も知らない夕暮れの町

らっしゃいませーらっしゃいませーってコンビニの店員の無気力は明るい

相槌を打つとき揺れる生え際の髪 夏まではあともう少し

めくる音だけに支えられるように図書館にひたひたと静寂

死んでいる誰かに会いに行きたくて雑に開いた人間失格

図書館の閉館時間ぎりぎりに司書がつぶやく迷える羊(ストレイシープ

青空を見上げて探す昼の月 少し死にたい、少し生きたい

寂しげな君の後ろをついていく どこかの家のカレーが匂う

ずっとずっと君の隣を歩けるか分からないけど歩調を合わす

満タンにならなくていい明日まで行ける程度の愛と同情

喧嘩した妹が乱暴に閉め僕が閉めなおす薄いふすま

母が言う隣の家の悪口をソーダで割ってちびちびと飲む

公園の鳩を追いかけ行く君のショルダーバックを持ち続けている

飲みかけのペットボトルの中にある海と空とに夕陽が落ちる

堤防を走って青春ごっこして初夏を出迎えるための儀式

君よりも僕の瞳が澄んでいて目を合わせずにキスを続ける

海岸の鳥を目で追う 灯台の静けさみたいに君が笑った

日常を早送りするためにあるつむじ風っていう合言葉

日に焼けた画用紙みたいな午後二時に君のあくびが吸い込まれてく

妹の音読を聴くとき居間の明かりのぼんやりした心地よさ

落ちていたゴミを拾った君の生き方を死ぬまで覚えておこう

そうもんかそういうもんか君のことずっと見ていたいと思うこと

優しさと言うにはあまりに脆すぎて君の背骨に中指を刺す

ぬるま湯に首までつかり君の手の節ひとつずつ脳に吐き出す

朝焼けの影がくっつきまた離れ繰り返す 手はつないだままに

携帯の充電がない「好きだよ」と君に送って二度寝を決める

短歌 震える手で箸を持つ

震える手で箸を持つ

青空があまりに遠く伸ばす手の意味を問う人はもういない

冷たいか温かいかも忘れたら希望を想うことも億劫

一階の自習スペースで震えてたペンの先までただ怖かった

真夜中に国道八号線を行くつらいかなしいこわい たすけて

西友の駐車場の隅っこで四十五分間泣いていた

友達は楽しい時を共にする(笑って、私)(泣くんじゃないよ)

旅人のように誰にも知られずに死にたいときが毎朝七時

明石焼き頬張りながら幸せの氷の上を一人で走る

全部全部放り出したい真夜中の勉強机は四角く硬い

必要な気力がすべてなくなって(これ私だと呼んでいいのか)

レーズンパンだけを食べてた日数を数えることも思いつかない

現実がすりガラス越し なにもかも私を置いて新年は来る

家からも成人式も出れなくて二十歳という名だけがきらきら

留年と言われてはいとうなずいてかなしくもうれしくもなかった

友達のくれたアロマを嗅ぎながら眠れぬ夜をつつつと明かす

病気だと言い訳してるそのことか死にたくなるほど恥ずかしかった

怖いようねえ怖いよう怖いよう恐怖発作がまた始まった

つらくないつらいつらくないつらい 胸が鈍器で殴られるよう

まだ春が来ない花園 まだ青い顔でゆっくりゆっくり歩く

一日は雲が流れるようすぎて三月四月五月 朝です

ぼんやりと指先は春鼻先は夏口先はまだ冬のまま

ぼちぼちと答えるだけの一日はだるい体を持て余すから

六か月目にして薬が効きだした 薬の上の幸せを知る

毎月の薬代を記帳する 普通に成るのに必要な金

つらいようつらいんだようつらいよう つらいんだようつらいんだよう

愛されていることを知る そのうえで死にたくなってホント死にたい

死にたいに代わる言葉を見つけてよ午後の寝室光に満ちて

知り合いの少ない席は予想より胸が軽くて息がしやすい

留年の丸が付けられ 少しだけ不思議な気持ちでまわした名簿

くるくると変わる体調くるくると落ちる信用 空はまだ遠い

海岸の波消しブロック置くように薬を増やす(in vitro だね)

副作用だと気付かずに震える手で箸を持ったらこぼす白菜

死にたいと思いながらも生きたいと思う 器用に希望をつかむ

詩 嘘つき

嘘つき

嘘つきな私

嘘つきな私が歩いている

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風にのって運ばれる花粉

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風にのって運ばれる花粉によってくしゃみをする父

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風にのって運ばれる花粉によってくしゃみをする父を笑った母

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風にのって運ばれる花粉によってくしゃみをする父を笑った母が大切にしているネックレス

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風にのって運ばれる花粉によってくしゃみをする父を笑った母が大切にしているネックレスを壊した罪をなすり付けられた猫のシャム子

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風にのって運ばれる花粉によってくしゃみをする父を笑った母が大切にしているネックレスを壊した罪を擦り付けられた猫のシャム子が取ってきたネズミの死骸

嘘つきな私が歩いているところに吹いてきた風にのって運ばれる花粉によってくしゃみをする父を笑った母が大切にしているネックレスを壊した罪を擦り付けられた猫のシャム子が取ってきたネズミの死骸を見つけて叫ぶ姉さん

短歌 光学顕微鏡

光学顕微鏡

透明なプレパラートの中央に人だつたもの薄くありけり
心筋の壊死の標本から思うこの人の痛みや苦しみを
笑つても笑わなくてもいつか死ぬことにトイレの鏡で気づく
コーヒーは五杯目となりブラツクもミルクも飽きて途方にくれる
大小が不同な核をちりばめて癌は宇宙のやうにひろがる
ひさびさの堤防道路で煽られて臭いがきつい汗をかきたり
アスベスト中毒を見る 美しい標本だねと教授が呟く
中皮腫にならずに死んだこの人の労災を左右する紙切れだ
勉強が嫌いな私 論文を読む指示だけを土日にうける
いくつもの癌を見た日はその奥にある人のこと想像できず
コーヒーの苦さが舌にしみる日は早めに帰り布団に入る
がんと癌の違いを友に説明し曖昧な返事をもらう 春
学生が社会人へとなっていく季節にひとり赤信号待つ
空耳を救急車の音でするとき微かにはいる利き手の力
美しい円柱上皮から崩れ無秩序になるときの落胆
何匹のマウスが死ねば難しい蛋白質の論文となるか
五本目のペットボトルを飲み干してオレンジジュースを欲する私
会ってから三日の人ととりとめのない内容を話し続ける
コーヒーが冷めると一気に飲めるから冷めてから飲むカンファの途中
遺伝子を増幅しては調べおり 科学の地道さを体現す
低分化肺癌の診断をする先生の目が本で見えない
奇形腫の様々な組織像を見ておもしろいなと思える私
何もかも放り出したい時に咲く心の花はいつもコスモス
太陽も空も知らずに死んでゆくマウスの心臓を取り出した
珍しい症例だぞと渡されたプレパラートの向こうの恐怖
感情をピンセツトで取り除きひとつひとつの標本を見る
赤色に染まった消化腺に感情移入した私がひとり
美しき瀘胞を持ちて甲状腺は生まれるという感動だ
恋人のメールを待ちて乱雑な暮らしにひとつまち針をさす
一本の管からできた人間の胃や小腸にガトーショコラを
切り出しでいない先生の机にはかわいいカレンダーと教科書
卵巣の切片にある卵管の細さに時を忘れてしまふ
暇な日のチーズリゾットにはハムとしいたけを入れ冷まして食べる
授業中光学顕微鏡で見る人生 染色された切片


フィクションです。

短歌 春のはじまりの一日

春のはじまりの一日

さあ、朝だおはよう世界 まわってることを少しは嬉しく思う
鳥が飛ぶ朝の出窓の青空は私が一番好きな絵画だ
透明なグラスにそそぐミルクから草原のあおぐささを感じる
焼きたてのパンの匂いをほおばって溶けたバターとおはようのキス
カチャカチャとジャージャージャーの合唱の指揮をしながら皿を洗った
冷たさがしみる洗濯機の中で春色のシャツワンピが泳ぐ
パンパンとシワを伸ばせば春色のシャツワンピがすぐはしゃぎだすから  
真っ青な空にはためく洗濯物たちが少しだけうらやましい
お隣の野畑さんからいただいた鈴蘭の花には毒がある
スニーカーに紐を通してスニーカーらしくなったらほら誇らしげ
突拍子もない風が吹きタンポポが驚いた目で空を見上げる
裏山のまだ若い木が太陽に語りかけているようにそよいだ
道端の猫があくびをかましたら私も同じくあくびをかます
電線の雀が三羽いるけれどきっとなんにも考えてない
赤色のポストが食べる真っ白な女の子からのピンクの手紙
コンビニの角を曲がって交番の前を通れば桜の巨木
のんびりと泳ぐ亀とか鯉とかの横で水鳥の数を数える
ときおりの風が水面を揺らすから雲が歪んで泣き顔になる
あの雲はあの山越えて消えるのか知らないけれどとっても白い
夕暮れになる直前の変な色した空ばかり見てる気がする
西窓が真っ赤に熟れて落ちそうであわてて両の手をさしだした
空色が青色になる瞬間を見ようと落ちる夕日にむかう
輝いた一番星とヘッドライトのつらなりの文脈を読む
オリオンはまだ見えるからその端に冬がぶら下がってるのかな
小麦粉とバターを焦がさないように炒めてつくるクリームシチュー
火を通したなば甘く玉ねぎは私の舌を恋しく思う
少しだけ湯船で歌うこの歌の歌手の名前は忘れてしまった
温かい布団の中に入るとき世界に愛されてると思う
眠れずに羊の数を数えたら羊の夢をみるのであろう
まどろみの中で最後のあいさつは「春の一日おやすみなさい」

短歌 Dream of 1965 in 2017

Dream of 1960s in 2017 さはらや

夢見ても過去ほど遠いものはなく傷つきながら弦を押さえる
無視をして通りすぎてく人々もそれぞれ前を見て歩いている
投げられたコインに裏があるように選ばなかった人生がある
啄木はロックを知らず死んでった 中指でさす澄んだ青空
いつまでもあると思うな親と金、世界に反抗するこの気持ち
宗教と政治の話をしないから賢いと思われる人々
トランプが嫌いだゲームの方でなく そう人の方 なあ、笑うなよ
夕焼けを悲しいものと決めたとき俺の心が少し腐った
輝いたものばかり集めたとしてそれを嫌いになってもよいか
反逆のひとつとしては小さくて母に小声でおはようと言う
要介護五の祖父の枕元には咲いた桜を 自己満足で
あきらめるなよと言われて越えられるくらいの壁を越えてきました
ディープ・パープルばかり聞く日があってその日は死にたいと思わなかった
届かない声を張り上げつぶれてくアイデンティティーに贈る花束
一人では生きていけぬと知った日の空は残酷なほどに青い
道具箱ひっくり返し探すけどあの日しまったボタンがなくて
ひずみさえ歯車の一部とされて笑われている気がするが寝る
びしょ濡れの片羽をもつ天使には温かいココアを差し入れる
古きよき時代を知らぬ俺たちが作る未来だ このばかやろう
無気力がベットの上に乗っているような日曜日の午後六時
狂気だけが新しい時代を作る 俺は狂えずただ生きている
ちぐはぐな気持ちのパッチワークには何を包むかまだ決めてない
マウスにはなりたくないと言うときに人は一匹の動物だ
つらいとき叫んでみると日常はくだらないこと バラバラになる
喉元を過ぎて熱さを忘れなければ進めないときだってある
ビートルズだけ聞いている一日がありその日だけ平和を信じる
戦争が嫌いだ 遊びではなくて人が死ぬ方 おまえも死ぬぞ
日常が戦争におき変わっても人は生きてく俺も生きてく
平和でもいじめはあるし人が死ぬ当たり前でも雲は流れる
説教を始めたくなる気を抑えゴミ捨て場のカラスを追い払う
ぱっと見は自己満足と承認欲求の塊 いや、人間だ
薄すぎる勇気をもって目を覚ます天井があり毎日がある
詰め込んだ荷物の中に紛れ込む死にたい気持ちと情熱の粒
夢見てた過去はどこにもないと知り夕焼け雲は明日へ繋がる